最近では、ECサイトでセット販売を導入する動きが注目されています。セット販売とは、複数の商品をひとつにまとめて販売する手法のことで、昔からある一般的な販売方法のひとつです。しかし、「セット販売」という言葉は耳にするものの、実際にECサイトではどのように活用すればよいのか、迷っている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ECサイトにおけるセット販売の基本から、その活用方法、メリット・デメリットまで、売上アップにつながる具体的なポイントをわかりやすく解説します。
ECサイトでのセット販売の特徴とは
ECサイトにおけるセット販売とは、複数の商品を組み合わせてひとつのセットとして販売する手法です。たとえば、同じブランドの商品で「味」や「色」が異なるバリエーションを組み合わせるパターンがよく見られます。さらに、商品軸ではなく「利用シーン」に着目したセットも特徴的です。たとえば、キャンプ用品の場合、テントと一緒にシュラフやランタンなどをセットにすることで、顧客が実際に使用する場面を想定した販売が可能になります。
この他にも、テーマに基づいたセット販売も人気です。たとえば「災害対策グッズ」や「テーマパークグッズ」など、目的や興味に沿った構成にすることで、より訴求力のある商品展開ができます。
またECサイトでは、アクセス数や購入率、顧客単価といった重要なデータを簡単に取得できます。セット販売においても、これらのデータをもとに改善を重ねることで、テストマーケティングを繰り返しながら効果的な販売戦略を構築することが可能です。
このように、セット販売を上手に活用することで、ECサイト全体の売上向上にもつなげることができます。
ECサイトのセット販売のやり方
ここからは、ECサイトでセット販売を行う際の具体的な方法や考え方について解説します。どのように商品を組み合わせるのか、販売設定をどう行うのかなど、実践に役立つポイントを順を追って見ていきましょう。
顧客がほしいセットを提案する
ECサイトでセット販売を行う際は、「顧客が本当にほしいと思う組み合わせかどうか」が何よりも重要です。
商品同士に関連性や互換性がなければ、ユーザーの購入意欲を引き出すことはできません。たとえば、キャンプ用品を扱う場合、テントに加えて、その中で使うシュラフ(寝袋)やランタンなどをセットにすると、これからキャンプを始めようとしている初心者やファミリー層にとって魅力的な商品になります。
一方で、経験豊富なキャンパーはすでに主要なアイテムを持っているケースが多く、セット商品よりも単品で必要なものだけを選ぶ傾向があります。このように、ユーザーの経験値やニーズに合わせてセット内容を工夫することが、購入につながるセット販売のカギとなります。
利益率の異なる商品を組み合わせて販売効率を高める
利益率の高い商品と低い商品を組み合わせることで、全体の収益性を改善しつつ、客単価の向上を期待できます。ただし、セットの内容が顧客のニーズに合っていなければ、購買にはつながりません。組み合わせる際は、実際に需要がある構成になっているかを慎重に検討することが重要です。
また、倉庫に残っている在庫品の中に利益率の高い商品があれば、それらをセットに加えることで、販売のチャンスを広げることも可能です。ただし、以前から人気がなく、ユーザーから支持されていない商品を無理にセットに含めるのは避けましょう。
場合によっては、こうした行為が「不公正な取引方法(抱き合わせ販売)」と見なされ、独占禁止法に抵触する恐れもあります。顧客にとって魅力的で自然なセット内容であるかを常に意識することが、長期的な信頼構築にもつながります。
セットに付加価値をつける
セット販売で売上を伸ばすためには、「付加価値」を加えることが重要です。単に商品を組み合わせるだけでは、ユーザーに魅力的だとは感じてもらえないこともあります。
そのため、セット価格を単品購入時の合計より少し下げたり、購入者限定の自社ノベルティをプレゼントしたりするなどの工夫が有効です。特に、すでに自社ブランドに関連するノベルティがある場合は、それを活用するのがおすすめです。
ノベルティが安価であっても、ブランドのファンにとっては嬉しい特典となります。こうした付加価値は、顧客満足度の向上にもつながり、リピート購入やファン化にも効果を発揮します。
ECサイトのセット販売方法
ここからは、ECサイトで実際に導入しやすいセット販売の具体的な方法についてご紹介します。「定額固定」「定額割引」「定率割引」の3つの手法があり、それぞれにメリットや活用シーンがあります。
定額固定でのセット販売
定額固定でのセット販売とは、あらかじめ商品数や価格を固定し、単品で購入するよりもお得感のある価格で提供する販売手法です。この方法は、比較的価格の安い商品をまとめて販売する際に特に効果的です。たとえば、低価格帯のファッションアイテムを複数組み合わせて、自社ブランドとして販売するケースが挙げられます。
単価の低い商品をセットにすることで、顧客にとってはお得に感じられ、事業者側としても客単価の向上を狙える点がメリットです。
定額割引でのセット販売
定額割引によるセット販売とは、購入数に応じて一定額を値引きする販売手法です。たとえば「3点購入で500円引き」といった形が代表的で、ECサイト以外の実店舗でも広く使われています。
この手法は、衣類などのように「本来は1点だけ購入するつもりだった商品」でも、割引によって3点以上まとめて購入してもらいやすくなる点が特徴です。たとえば、紳士用の夏シャツなどは、複数あっても困らないため、割引をきっかけに購入意欲が高まりやすい商品といえます。
事業者側にとっては、客単価の向上が見込めるだけでなく、季節商品の在庫を効率的に処分できるというメリットもあります。とくに衣類・ファッション業界では、夏物や冬物などの在庫調整が課題となりやすいため、このような販売手法は有効です。
定率割引でのセット販売
定率割引によるセット販売とは、一定数以上の商品を購入した場合に、購入金額から一定の割合を割り引く販売手法です。たとえば「3点以上の購入で20%オフ」といった形がよく見られます。
この方法はファッション業界でよく使われており、複数点のまとめ買いを促進する効果があります。さらに、賞味期限のある食品や、消費期限が比較的短い化粧品など、在庫を長期間抱えたくない商品にも効果的です。
販売数を増やして在庫を早くさばきたい場合は、購入点数に応じて割引率を段階的に上げる方法も有効です。こうした工夫により、在庫処分と売上向上の両方を同時に狙うことができます。
セット販売の3つのメリット
これまでに触れた内容と一部重なる部分もありますが、セット販売には明確なメリットがいくつかあります。特に「客単価の向上」「在庫の圧縮」「リスクの軽減」の3点は、ECサイト運営において大きな効果をもたらします。
ここでは、それぞれのメリットについて具体的に見ていきましょう。
客単価のアップ
セット販売の最大のメリットは、客単価の向上です。単品販売では1点だけの購入で終わるところを、複数の商品をまとめて販売することで、一度の購入でより多くの売上を得ることができます。
特に、関連性のある商品や使用シーンが共通する商品を組み合わせれば、自然と購入点数が増えやすくなり、結果として客単価アップにつながります。
在庫の低減
セット販売は、在庫を効率よく減らす手段としても効果的です。特にファッション業界のように季節性の高い業界では、余剰在庫を抱えることが大きなリスクとなるため、在庫の圧縮は利益確保に直結します。
セットにすることで販売数量を増やすことができ、単品販売よりもスムーズに在庫を処分しやすくなります。もちろん、売れ残った商品を別ルートで安価に処分する方法もありますが、その場合は自社ブランドの価値を損なう可能性もあります。
できる限り通常販売の形でユーザーに届ける方が、ブランドイメージの維持や顧客満足の面でもメリットが大きいといえるでしょう。
低いリスク
セット販売の3つ目のメリットは、比較的リスクが低い点です。通常、セット商品は既に在庫として保有している商品を組み合わせて構成するため、新たに商品を仕入れる必要がありません。そのため、余分なコストをかけずに、在庫状況を見ながら柔軟に調整できるというメリットがあります。
ただし、リスクを最小限に抑えるためには、商品の動きや在庫の状況をしっかりと把握・分析しておくことも重要です。
セット販売の3つのデメリット
セット販売には多くのメリットがありますが、一方で注意すべきデメリットも存在します。具体的には、「倉庫内での作業の複雑化」「商品情報登録の手間」「通常販売の機会損失」などが挙げられます。
ここでは、セット販売に伴う3つの主なデメリットについて解説していきます。
倉庫内作業が複雑
セット販売のデメリットのひとつが、倉庫内での作業が複雑になる点です。単品販売と比べて、セット商品の場合は、受注から梱包・発送までの工程が増えるうえに作業内容も煩雑になります。また、セットを組むための準備や梱包作業には追加の人手や時間が必要となる場合もあり、結果的に業務全体の効率を下げてしまうことがあります。
商品情報登録も煩雑
セット販売のデメリットとして、商品情報の登録作業が煩雑になる点も挙げられます。たとえば、同じ商品であっても「単品」と「セット用」では、注文上は区別される一方、在庫管理上では同一商品として扱われるケースが多く見られます。
特に、倉庫管理や出荷業務を外部に委託している場合には、委託先と商品コードや在庫引当ルールについて事前に明確な取り決めをしておく必要があります。また、商品マスタ上で「セット用商品」がどのように定義されているかが不明確な場合、誤って二重に在庫を引き当ててしまったり、逆に欠品と判断されて販売機会を逃したりするリスクもあります。
このようなトラブルを防ぐためにも、商品情報の登録や管理には細心の注意を払うことが求められます。
通常の販売機会の損失
セット販売には、通常の販売機会を損なうリスクもあります。たとえば、単品とセット用の商品を別々に管理している場合、在庫数の設定が適切でなかったり、売上状況に応じて柔軟に在庫振り分けを行えるシステムが整っていなかったりすると、本来の販売チャンスを逃してしまう可能性があります。
また、冬物衣料などを例に取ると、気象予測やその年の需要動向によっては、バーゲンセールを行わなくても通常価格で十分に売れる場合もあります。このように、本来であれば通常販売で利益を得られた場面でも、安易にセット化・割引してしまうことで利益を取りこぼすことがあるのです。
通常販売とセット販売のどちらも最大限活かすためには、ニーズの把握や販売傾向の分析、マーケティングツールの活用などによって、状況に応じた柔軟な販売戦略を立てることが重要です。
セット販売をおこなう場合の注意点
ECサイトで実際にセット販売を導入する際には、メリットだけでなく注意すべき点もいくつかあります。トラブルや販売機会の損失を防ぐために、事前に確認しておきたいポイントを以下で紹介します。
確実な情報伝達
ECサイトでセット販売を行う場合、最も重要なのは「情報伝達の確実さ」です。受注情報と出荷時の情報との間にズレが生じることがあり、その結果、出荷ミスや在庫管理の混乱を招く恐れがあります。
とくに、どの在庫から商品を引き当てるのかといったルールは、事前に明確に決めておく必要があります。そしてその運用ルールを、倉庫内の作業スタッフだけでなく、営業部門や管理部門を含めた社内全体にしっかり共有・浸透させることが重要です。
商品コードのすり合わせ
セット販売をECサイトで導入する際には、商品コードのすり合わせも欠かせません。セット商品には専用の商品コードを設定し、それが「セット用」であることを明確に示す必要があります。こうした区別が不十分だと、単品商品との混同が生じ、在庫管理や出荷作業に影響を与える可能性があります。
特に、倉庫管理や出荷業務を外部委託している場合は、委託先との間で商品コードの運用ルールをしっかりと共有し、リアルタイムで最新情報を確認できる環境を整えることが重要です。そのためにも、販売管理ツールや在庫システムを共通で活用し、常に正確な情報をもとに運用できる体制を構築しておきましょう。
在庫をセット販売する範囲の設定
ECサイトでセット販売を行う際には、どの在庫をセット用に使用するのか、その範囲を明確に定めておくことが重要です。たとえば、単品商品とセット商品を並行して販売している場合、セット商品の受注後にどの在庫を使って梱包・発送するのかをルール化しておかないと、現場作業で混乱が生じる可能性があります。
特にキャンプ用品のように、異なる種類の商品を組み合わせてセットにする場合、「単品商品の在庫を流用するかどうか」や「在庫引当を行うタイミング」など、複数の条件をあらかじめ決めておく必要があります。これを曖昧にしてしまうと、販売管理上でも深刻なトラブルを招く恐れがあります。
こうした課題を解決するためには、セット販売に対応可能な物流・受注管理システムの導入が有効です。在庫の自動引当や、リアルタイムでの在庫状況管理を行うことで、欠品状態での受注や在庫過多によるトラブルを防ぐことができます。
また、単品とセット商品それぞれの販売可能数や上限をシステム上で設定しておくことで、手作業による人的ミスを減らし、より安定した運用が可能になります。
ECサイトのセット販売を成功させるために
本記事では、ECサイトにおけるセット販売の特徴や具体的な活用方法、メリット・デメリット、運用上の注意点まで幅広く解説してきました。
セット販売は、ECの売上向上に大きく貢献できる販売手法のひとつです。従来からある手法ではありますが、在庫管理や販売戦略を工夫することで、今のEC市場においても十分な効果を発揮します。ただし、複数の商品を組み合わせて販売する特性上、在庫管理や受注処理の複雑さには注意が必要です。適切な管理体制やシステムの導入によって、ミスを防ぎ、安定した運用につなげることが大切です。
セット販売のメリットを最大限に活かしながら、リスクを抑えた運営を目指していきましょう。
本記事が、ECサイトでのセット販売を検討している皆さまにとって少しでも参考になれば幸いです。