ECサイトなどで商品を販売する際、適切に在庫を確保することが重要です。しかし、在庫が過剰になってしまうと、需要を上回る商品が余り、管理コストの増加や品質の劣化といったさまざまな損失を招く可能性があります。
在庫過多はデメリットが多いため、適切なバランスを考え、対策を講じることが必要です。この記事では、在庫過多が引き起こす問題やその原因、そして防ぐための方法について詳しく解説します。
この記事で分かること
・在庫過多による問題と原因
・在庫過多を防ぐ方法
・在庫過多が生じたときの対処法
在庫過多による問題点とリスク
在庫過多とは、実際の需要を上回る量の商品を倉庫などに保管している状態を指します。確かに、欠品は店舗にとってリスクとなりますが、過剰な在庫を抱えることも大きな問題です。品質維持や管理コストの増加など、経営に悪影響を及ぼす可能性があります。
在庫過多が引き起こす具体的な問題を、一つずつ紹介していきます。
資金回転率の低下
在庫過多による大きな問題の一つが、資金回転率の低下です。仕入れた商品は販売されることで利益につながりますが、在庫として保管しているだけでは収益を生みません。そのため、在庫が増えすぎると仕入れにかかるコストが膨らみ、経営を圧迫するリスクが高まります。
また、在庫が売れずに長期間保管されると、商品の品質が低下し、最終的に値下げや廃棄処分が必要になることもあります。さらに、未販売の在庫でも課税対象となる場合があり、税金の負担が増える可能性があるため、適切な管理が求められます。
作業負担や運搬の増加
在庫過多になると、作業負担が増大する可能性があります。大量の在庫を抱えていると、商品の出し入れや棚卸し作業が増え、管理にかかる手間も大きくなります。少量の在庫であれば、必要なスタッフも少なく、作業時間も短縮できますが、在庫が多いほど負担は増加します。
さらに、在庫が多すぎると整理や管理に時間を取られ、スタッフの増員や作業時間の確保が必要になり、結果的に作業効率が低下する恐れがあります。在庫管理の効率を維持するためにも、適切な在庫量を保つことが重要です。
スペースの無駄遣い
在庫過多になると、倉庫や保管場所のスペースを無駄に消費してしまいます。商品が多すぎて出荷が追いつかない場合、保管スペースを確保し続けなければなりません。
自社倉庫内に収まればコストは抑えられますが、保管場所が足りずに外部倉庫を借りるとなると、追加の賃料や管理費が発生し、経営コストが増加します。さらに、倉庫管理のために人員を増やす必要があれば、人件費の負担も大きくなるでしょう。
適切な在庫管理を行い、無駄なスペースの確保を避けることが重要です。
維持費の増加
在庫過多になると、商品の品質管理や腐敗対策にかかる維持費が増加する可能性があります。特に、温度管理が必要な商品を保管する場合、適切な空調設備が求められます。倉庫に空調設備が備わっていなければ、新たに設置する必要があり、その分のコストが発生します。
さらに、温度管理を維持するための電力消費が増え、ランニングコストが高騰する可能性もあります。加えて、在庫量が多いと運送時の輸送コスト負担も大きくなるため、注意が必要です。
経年劣化による廃棄コストの増加
在庫過多になると、商品の品質が低下し、廃棄コストが増加するリスクがあります。大量の在庫を抱えていると、長期間保管される商品が増え、時間の経過とともに品質が劣化していきます。
温度管理などに細心の注意を払っていても、経年劣化は避けられず、一定の品質基準を満たさなくなった商品は廃棄せざるを得ません。
さらに、在庫過多によって廃棄量が増えると、結果的に損失額が膨らみ、経営に大きなダメージを与える可能性があります。適切な在庫管理を行い、廃棄コストを抑えることが重要です。最悪の場合、過剰な在庫処分によって赤字経営に陥り、倒産リスクを高めることにもなりかねません。
危機管理が難しくなる
在庫過多になると、適切な危機管理ができなくなる可能性があります。過剰な在庫を抱えていると、生産計画の精度が低くても顧客に影響が出にくいため、問題への対応が遅れたり、危機意識が薄れてしまったりすることがあります。
問題に気づくのが遅れると、経営コストの悪化や作業の非効率化につながり、業務全体のパフォーマンスが低下する恐れがあります。また、過剰在庫があることで本来の課題が見えにくくなり、改善点を見つけるのが難しくなるのもデメリットです。
適切な在庫管理を行い、常に危機意識を持って経営の健全化を図ることが重要です。
在庫過多が発生する原因とは？
在庫過多になると、さまざまな問題を引き起こすため、できる限り防ぐことが重要です。しかし、注意していても在庫が過剰になってしまうケースは少なくありません。
なぜ在庫過多が発生するのか、その主な原因について紹介します。
需要予測のズレ
在庫過多が発生する原因の一つに、需要予測と実際の販売数のズレがあります。生産計画を立て、発注量を調整していても、予測と実際の販売数が一致しないと在庫が過剰になることがあります。
売り手としては品切れを避けるために多めに発注する傾向がありますが、過剰な在庫は支出の増加につながるため、適切なバランスを取ることが重要です。また、製造のリードタイムが長い場合、顧客の需要変動に柔軟に対応できず、結果的に在庫が増えてしまうケースもあるため、注意が必要です。
不良率の高さによる過剰生産
在庫を管理する担当者や発注者が適切な知識を持っていないと、不良率を考慮せずに過剰な在庫を抱えてしまうことがあります。歩留まりや不良率を正確に把握していないと、適切な在庫数を設定できず、結果として余剰在庫が発生しやすくなります。
また、不良率の改善が行われていない場合、発注数以上の生産が必要となり、在庫が過剰になることがあります。さらに、部品や製品の標準化が進んでいないと、発注にばらつきが生じやすく、結果として在庫過多につながる可能性があります。
過剰在庫は品質の低下や経営コストの増加につながるため、適切な生産管理と不良率の改善が重要です。
目標達成を優先した過剰生産
自社で売上目標を設定することは、適切な発注量を決める指標になります。しかし、生産性や稼働率ばかりに意識が向くと、必要以上に多く発注してしまうことがあります。
その結果、過剰生産につながり、在庫が極端に増えて管理が困難になるケースも少なくありません。さらに、目標達成に関する指示が曖昧で状況の「見える化」ができていない場合、在庫が自然と膨らんでしまう可能性があります。
また、「欠品さえ避けられればよい」という考えに陥ると、適正在庫を超えて過剰在庫になってしまうこともあるため、注意が必要です。
商品の価値低下による需要減少
商品の価値が低下し、需要が落ちることも在庫過多の原因の一つです。商品の価値は、消費者ニーズの変化、技術の進歩、競合他社の台頭などによって左右されます。
発注時点では市場の状況が良好で競合も少なく、順調に売れていたとしても、経済環境の変化や競争の激化により、需要が減少することがあります。その場合、発注数を適切に調整しなければなりません。
しかし、担当者が商品の価値変化を考慮せずに発注を続けると、気づかないうちに過剰な在庫を抱えてしまうことがあります。定期的に市場動向を分析し、需要に応じた適切な発注を行うことが重要です。
返品在庫の影響
在庫過多の原因の一つに、返品数の増加があります。ECサイトなどで商品を販売していると、お客様がサイズや素材の違いを理由に返品することがあります。返品された商品が再販可能であれば在庫に戻りますが、販売実績を基に発注を行うため、返品在庫の影響が考慮されないと過剰な仕入れにつながることがあります。
その結果、返品された在庫と新たに補充した在庫が重なり、在庫過多が発生するリスクが高まります。返品対応は顧客満足度を向上させる重要な施策ですが、適切な検品と返品数を考慮した発注管理を行うことが必要です。
在庫過多を防ぐための対策
在庫過多が発生すると、経営を圧迫する原因となるため、適切な対策を講じることが重要です。具体的な対策は事業所ごとに異なりますが、以下のような取り組みを実施することで、在庫管理の最適化が可能になります。
需要予測の精度を向上させる
在庫過多を防ぐためには、需要予測の精度を向上させることが重要です。商品を発注する際は、過去の販売データ、市場のトレンド、季節ごとの売上、経済指標など、さまざまな要素を総合的に分析し、適切な数量を決定する必要があります。
しかし、マーケティング手法やシステムの精度が低いと、予測が大きくズレてしまい、結果的に在庫過多につながる可能性があります。そのため、AIを活用した予測ツールや、他の計測ソフトを組み合わせることで、より正確な発注が可能になります。
需要予測の精度が高まれば、適正在庫の維持がしやすくなり、コストの増加や品質低下を防ぐことができます。在庫管理の効率化のためにも、適切な手法を導入しましょう。
在庫の状況を可視化する
在庫過多を防ぐためには、在庫状況を可視化できる仕組みを構築することが重要です。可視化することで、担当者が現在の在庫を正確に把握しやすくなり、適切な発注調整が可能になります。
在庫を可視化する方法として、在庫管理システムの導入が効果的です。システムを活用することで、倉庫内のどこにどの商品があるのか、何が不足しているのかをリアルタイムで把握できます。
また、在庫状況をリアルタイムで追跡できれば、過剰在庫が発生する前に適切な対策を講じることが可能になります。在庫管理の効率化を図るためにも、システム導入を検討するとよいでしょう。
返品を減らすための対策を講じる
在庫は適切に管理していても、ユーザーからの返品によって増えてしまうことがあります。そのため、返品を減らすための対策を講じることが重要です。
顧客都合による返品は完全には防げませんが、ショップ側で適切な対策を行うことで、返品率を下げることは可能です。
例えば、
- 発送前の検品精度を向上させ、不良品を出荷しないようにする
- 商品ページの情報を正確に記載し、広告と実際の商品に差異がないかチェックする
こうした対策を行うことで、返品の発生を抑えられます。返品が増えると在庫過多の原因になるため、改善できる点を定期的に見直し、対策を強化していくことが重要です。
在庫過多が発生した際の対処法
在庫過多を防ぐ対策を講じていても、市場の変化や予測のズレによって倉庫内の在庫が増えてしまうことがあります。
もし在庫過多が発生してしまった場合は、早急に適切な対策を講じることが重要です。ここでは、在庫過多が起きた際に取るべき具体的な対処法を紹介します。
在庫のセールを検討する
在庫過多を解消するためには、商品のセールを実施するのも有効な対策です。倉庫に大量の在庫を抱えていても、必ずしも販売できるとは限りません。長期間保管することで、賞味期限切れや品質の劣化、不良品の発生につながり、最終的に廃棄しなければならなくなる可能性があります。
そのため、在庫を処分する際は、少しでも収益を確保し、経営への影響を最小限に抑える工夫が必要です。例えば、過剰在庫となっている商品を値下げすることで、購買意欲を高め、売上につなげることができます。
在庫を減らす努力も重要ですが、現在の在庫をどのように処分するかを戦略的に検討することも大切です。
買取業者の利用を検討する
在庫過多になった場合、買取業者を活用するのも一つの方法です。セールを実施しても、すでに商品の品質が低下している、または売れにくい場合は、在庫を処分しきれないことがあります。
しかし、一般の消費者には売れなくても、買取業者に相談すれば、品質をチェックした上で買い取ってもらえる可能性があります。売却価格はセール価格よりも安くなることが多いですが、廃棄するよりもコストを抑えられるケースもあります。
全体の売上が少なくても、赤字の軽減につながるのであれば、買取業者の利用を検討するとよいでしょう。
不要な在庫は適切に廃棄する
在庫過多になった場合、不要な商品を廃棄するのも一つの方法です。セール販売や買取業者の利用を試みても、品質の問題で現金化できないケースもあります。そのような商品を倉庫に長期間保管していても意味がなく、他の商品のためにスペースを確保することが重要です。
売り手側としては廃棄にコストがかかるため、できるだけ避けたい方法ですが、早めに見極めて処分することで、結果的にコスト削減につながる場合もあります。不要な在庫を長期間保管せず、適切なタイミングで処分することを念頭に置きましょう。
在庫過多を防ぎ、効率的な管理を
在庫過多になると、コストの増加やスペースの無駄遣いなど、経営面でデメリットばかりが発生します。そのため、適切に在庫を管理し、過剰な在庫が発生した場合は迅速に対処することが重要です。
また、在庫過多の問題を自社で解決するのが難しい場合は、専門業者に依頼するのも一つの方法です。適切な管理と対策を行い、無駄のない在庫運用を目指しましょう。
