棚卸資産とは?基本知識や管理の流れをわかりやすく解説

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ECサイトなどで商品を販売する際、棚卸資産について正しく把握することが重要です。棚卸資産とは、在庫を適切に管理するための概念であり、企業は貸借対照表上で明確にする義務があります。 そのため、正しい知識を持ち、適切な管理を行うことが求められます。

また、棚卸資産の管理は、さまざまな視点から確認する必要があり、基礎的な知識を身につけておくことが重要です。本記事では、棚卸資産の注意点や管理のポイント、処理の流れについて詳しく解説します。

この記事でわかること
・棚卸資産の基本と管理のポイント
・棚卸資産の計算方法や処理の流れ
・棚卸資産を活用した回転率向上の方法

もくじ

棚卸資産とは?確認しておくべきポイントを解説

棚卸資産とは、販売目的で保管している商品、製造途中の仕掛品、原材料などの総称であり、一般的に「在庫」と呼ばれます。 貸借対照表の借方項目では流動資産に分類されるため、財務管理において重要な要素の一つです。

しかし、会社経営の観点からは、過剰な棚卸資産を持たないことが理想的です。在庫が多すぎると、保管コストの増加や資金繰りの悪化を招く可能性があるため、適正な管理が求められます。

ここでは、棚卸資産を適切に管理するために確認しておくべきポイントについて解説します。

棚卸資産回転率とは?売上やコスト管理の重要指標を解説

棚卸資産回転率とは、商品がどれだけ効率よく販売されているかを測る指標です。製造や仕入れた商品が特定の期間内に何回販売されたかを示し、単位は「回転」で表されます。

回転率が高い場合は、商品がスムーズに売れていることを意味し、売上が好調であると判断できます。
一方、回転率が低い場合は、販売が停滞し、在庫の保管コストが増加するため、経営に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、棚卸資産の回転率を分析することで、売上だけでなく、商品の劣化や廃棄にかかるコストの発生状況も把握でき、無駄な支出の原因を特定することが可能です。

棚卸資産の回転期間とは?適切な在庫管理で売上アップを目指す

棚卸資産には「回転期間」という指標があり、これは在庫が一回転するのに必要な期間を示します。 在庫全体を販売するまでの目安となるため、適切な在庫管理を行う上で重要な要素です。

回転期間は年・月・日単位で表され、それぞれの期間に応じて計算できます。

例えば、回転期間が長い場合は、在庫の保管期間も長くなるため、経営上のリスクが増大します。 一方で、回転期間が短いほど、在庫がスムーズに販売されていることを意味し、売上の増加や利益率の向上につながる可能性があります。

棚卸資産の回転期間は売上に直結するため、定期的にチェックし、最適な在庫管理を心がけましょう。

棚卸資産として処理されるものとは?種類ごとの特徴を解説

棚卸資産には購入品や自社製造品などさまざまな種類があり、それぞれの用途に応じて分類されます。以下は、一般的に棚卸資産として処理される主な項目とその特徴です。

棚卸資産の種類と特徴

棚卸資産の種類特徴・説明
商品小売・卸売業が販売目的で所有する物品。
製品工業・鉱業・製造業などで生産された完成品。
副産物・作業くず製造の過程で必然的に発生する物品や廃材(裁断くず・落綿など)。
半製品加工が完了し、倉庫で保管されているが未販売の状態のもの。
仕掛品生産途中の製品で、加工・組み立て工程の途中にあるもの。
半成工事長期契約の請負作業など、進行中の工事案件。
原料・材料製造過程で使用される基本的な資材(木材・金属・化学物質など)。
購入部品他社から仕入れ、製品に組み込まれる部品や付属品。
補助材料燃料・潤滑油・接着剤など、製造工程で消費される資材。
貯蔵品包装材料・事務用品など、業務運営に必要な備品類。
預り品契約上は販売が成立しているが、まだ出荷されていない製品。

棚卸資産にはさまざまな種類があり、業種や業態によってその内容も異なります。 自社の状況に合わせて適切に分類し、管理することが、正確な在庫管理や財務処理につながります。

棚卸資産の評価方法とは?主な計算方法を解説

棚卸資産は、仕入れた時期によって購入価格が異なるため、一律の記録が難しい場合があります。さらに、紛失や劣化によって実際の在庫数が変動することもあるため、適切な評価方法を把握しておくことが重要です。棚卸資産の評価方法には、以下のような主要な計算方法があります。

評価方法概要
個別法各商品の購入価格を個別に記録し、評価を行う方法。高価な商品や特殊な在庫に適用される。
先入先出法先に仕入れた商品から順に販売・消費すると仮定し、評価を行う方法。物価上昇時に利益が高くなる傾向がある。
総平均法期間内の総購入金額を総購入数量で割り、平均単価を求めて評価する方法。価格変動の影響を平準化できる。
移動平均法仕入れのたびに平均単価を計算し、評価する方法。頻繁な仕入れがある場合に適している。
最終仕入原価法期末時点での最新の仕入単価を適用して評価する方法。会計基準上は認められないが、法人税法では特に届出がない場合に採用される。
売価還元法売上総利益率をもとに在庫の原価を推定する方法。小売業など、多品種の商品を扱う事業で用いられる。

それぞれの計算方法は事業の状況に応じて適用できますが、期末の在庫金額については「単価 × 数量」で算出します。在庫の数量は実地棚卸によって確定させ、在庫品の単価は原則として購入単価を用います。

最終仕入原価法は、会計基準としては認められていませんが、法人税法上では特に届出がない場合、原価法を選択したとみなされます。また、中小会計指針では、期間損益計算上で大きな弊害がなければ最終仕入原価法を適用することも可能とされています。

棚卸資産の計算方法とは?回転率と回転期間の求め方を解説

棚卸資産には「回転率」と「回転期間」の2つの指標があり、それぞれを計算して数値を把握することが重要です。これらの数値を確認することで、自社の在庫管理が適切かどうか、経営状態が良好かを判断しやすくなります。

棚卸資産回転率の計算方法とは?適切な数値を維持するポイントを解説

棚卸資産の回転率は、在庫がどれだけ効率よく販売されているかを示す指標です。以下の計算式で求めることができます。

棚卸資産回転率 = 売上高 ÷ 棚卸資産の平均金額

棚卸資産の平均金額は、期首(開始時点)と期末(終了時点)の在庫金額の平均値を使用するのが一般的です。

A社とB社のデータをもとに、棚卸資産回転率を計算してみましょう

企業売上高期首商品棚卸高期末商品棚卸高平均棚卸資産棚卸資産回転率
A社5,000万円700万円300万円(700万円+300万円)÷ 2 = 500万円5,000万円 ÷ 500万円 = 10回転
B社4,000万円300万円200万円(300万円+200万円)÷ 2 = 250万円4,000万円 ÷ 250万円 = 16回転

この場合、B社の回転率(16回転)がA社(10回転)よりも高いため、B社の方がより効率的に棚卸資産を販売できていると判断できます。

回転率が高いほど、在庫がスムーズに販売されていることを示しますが、一方で在庫切れのリスクも高まるため注意が必要です。回転率が極端に高いと、需要に対応できず、販売機会の損失につながる可能性があります。

したがって、自社にとって適正な回転率を把握し、適切な在庫管理を行うことが重要です。

棚卸資産回転期間の計算方法とは?在庫管理の最適化を目指す

棚卸資産回転期間とは、在庫がどのくらいの期間で販売されるかを示す指標です。回転期間が短いほど、在庫が早く売れているため、資金効率が良く、商品劣化のリスクも低くなります。棚卸回転期間は以下の計算式で計算できます。

棚卸資産回転期間 = 365 ÷ 棚卸資産回転率

前のセクションで計算したA社とB社の棚卸資産回転率を使い、実際に回転期間を求めてみます。

企業棚卸資産回転率計算式棚卸資産回転期間
A社10回転365 ÷ 1036.5日
B社16回転365 ÷ 1622.8日

両者を比較すると、B社の方が短期間で在庫を販売できており、効率的な経営ができていると判断できます。

棚卸資産の回転期間が長くなると、在庫の滞留によるデメリットが発生します。品質の低下が進み、劣化や破損によって販売できなくなるリスクが高まるため、適正な回転期間を維持することが求められます。また、市場の変化に対応できず売れ残る可能性もあるため、保管コストの増加にもつながります。

在庫の管理を適切に行い、回転期間を短縮しながら安定した供給を維持することが重要です。

棚卸資産の業種別の目安とは?適正な回転率と回転期間をチェック

在庫状況を把握するためには、棚卸資産の回転率や回転期間を確認することが重要です。さらに、業種によって在庫数や売上の特性が異なるため、自社の適正な在庫水準を判断するためには業種ごとの目安をチェックすることも必要です。

業種別の棚卸資産回転率と回転期間

業種棚卸資産回転率棚卸資産回転期間
建設業11.9回31日
製造業10.5回35日
情報通信業24.1回15日
運輸業・郵便業297.3回1日
卸売行業17.8回21日
不動産業・物品賃貸業3.7回99日

運輸業や情報通信業は棚卸資産を持たないケースも多く、設備や従業員の稼働による収益構造のため、回転率が特に高くなっています。一方で、不動産業や製造業は、販売や生産に時間を要するため、回転率が低くなる傾向があります。

業種ごとの回転率を把握することで、自社の在庫管理が適正かどうかを判断し、効率的な経営を目指すことができます。

棚卸資産の処理方法とは?収益性低下や減耗時の会計処理を解説

棚卸資産を会計処理するときは、複式簿記を使用するのが基本です。しかし、収益性の低下や減耗など、特別な要因によってどのように処理すれば良いのか迷うこともあるでしょう。ここでは、収益性の低下や減耗が発生した場合の会計処理方法を解説します。

収益性が低下した場合の処理

商品の収益性が低下した場合、中小会計指針では、災害や腐敗、またはこれらに準ずる特別な事象が発生した際に、帳簿価額を切り下げる必要があるとされています。これは、在庫の評価損を適切に計上し、財務状況を正しく反映するために行われます。

処理仕訳の例

新商品の発売により、旧製品の評価額が大幅に下がった場合、以下のように仕訳を行います。

旧製品の帳簿価額20万円
販売見込み額10万円
評価減額10万円

仕分け例

  • 借方:評価損益 100,000円
  • 貸方:商品   100,000円

備考記入例

「新商品の発売により、旧製品20万円の価値が著しく低下し、評価減を実施。販売見込み額は10万円。」

減耗が判明した場合の処理

棚卸作業を行うと、紛失や記帳ミスによる在庫の減耗が判明することがあります。この場合、帳簿上の在庫数と実際の在庫数に差異が生じるため、売上原価として処理を行います。

処理仕訳の例

商品が5個(単価100円)減耗した場合、以下のように仕訳を行います。

仕訳例

  • 借方:棚卸減耗損(売上原価)500円
  • 貸方:商品         500円

備考記入例

「1個100円の商品が5個減耗したため、売上原価として処理。」

適切な処理を行うことの重要性

収益性の低下や減耗が発生した場合、適切な会計処理を行うことで、財務状況を正確に反映し、企業の健全な経営を維持することが可能になります。特に、在庫の評価減や減耗が頻繁に発生する場合は、在庫管理の見直しや仕入れの最適化も検討することが重要です。

棚卸資産の回転率を高めるには?

棚卸資産の回転率が高く、在庫の滞留期間が短いほど、利益を上げられる可能性が高まります。在庫の回転率を向上させるためには、さまざまな工夫が考えられますが、特に押さえておくべき重要なポイントがあります。今回は、具体的な対策について紹介します。

在庫商品を売上額の大きい順に区分けする

在庫の商品アイテム数は、企業によって数百から数千に及ぶこともあります。そのため、効率的に管理するためには、ABC分析を用いてランク分けを行うのが有効です。

ランク分けの方法には企業ごとに独自の工夫ができますが、基本的には売上の上位20%の商品を最上位のAランクに設定するのがおすすめです。売上の上位に位置する商品は、全体の利益の約80%を占めることが多く、特に重視すべき商品となります。そのため、在庫の中でも売上額の大きい商品を優先し、売上額の低い商品はBやCに分類して管理するとよいでしょう。

商品のランク付けを行う際は、在庫回転率や消化日数を計算すると、より明確に判断できます。Aランクの商品は、BやCと比較すると回転率が高く、消化日数が短い傾向にあります。それぞれの商品を適切にランク付けし、まずは在庫の区分けを完了させましょう。

ランクの高い商品で目標値が達成できない場合は改善する

目標を設定しても、すべての商品が順調に売上を伸ばせるとは限らず、低迷する商品も出てくるため、適切に改善していく必要があります。在庫をランク分けした後、目標値に届かない商品がある場合は、以下のような対策を講じることが可能です。

  • リードタイムの短縮や発注量の見直し
  • 不要在庫の整理と、必要に応じた削減や廃棄の実施

リードタイムとは、仕入れ先へ発注してから商品が入荷するまでの日数のことを指します。また、発注量は仕入れ先との契約により、1回の発注数量に制約がある場合もあります。しかし、目標値を達成できない商品が多いと、売上の低下につながり、経営面で損失を招く可能性があります。

そのため、目標値に達していない商品のリードタイムに制約がある場合は、仕入れ先と交渉し、改善の余地があるか検討することが重要です。また、返品や廃棄が増えるとコストがかかるため、販売戦略の見直しも行い、在庫の回転率向上を目指しましょう。

ランクの低い製品はテーマごとに改善していく

ランク付けを行った際に、BやCなどの優先度の低い商品については、テーマごとに改善を進めていきましょう。BやCランクの商品も売上には影響を与えますが、Aランクの商品ほど優先度が高いわけではありません。商品アイテム数が多い場合、すべてを改善するのは現実的ではないため、設定したテーマに該当する商品を重点的に改善することが重要です。

例えば、以下のような対策を用いた改善が考えられます。

  • 異常に長い在庫消化日数の商品を優先して改善する
  • 最終出荷日や入荷日が古いものを対象にする

例えば、在庫消化日数の目標値が20日の場合、異常値としてその2倍以上の期間がかかっている商品を対象にすれば、改善すべき商品をある程度絞ることができます。また、最終出荷日や入荷日が過去1カ月以上前で、まったく動きがない商品に絞れば、対象となる商品の数も限定されるはずです。

さらに、売上頻度や販売数量が極端に低い商品については、在庫運用ではなく受発注品に変更することで、棚卸資産の負担を削減できます。このように、テーマごとに分類し、効果的に改善を進めるようにしましょう。

棚卸資産の適正管理で経営効率を最大化しよう

ここまで、棚卸資産について紹介してきました。棚卸資産の管理においては、回転率と在庫の滞留期間が重要なポイントとなります。それぞれの数値を計算し、現状を正しく把握することが必要です。

もし数値が悪い場合は、適切な改善策を講じることで売上の回復が期待できます。今回紹介したポイントを押さえ、効果的な在庫管理を行いましょう。

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