ECサイトを構築するのにかかる費用は安いものではありません。特に長期的なスパンで継続しなければ収益を見込めないのがECサイトの運用であり、さまざまなコストが生じてしまいます。
ECサイトの構築に補助金を利用できるので、こちらを上手に活用してECサイトを効率よく運用していくことが可能となります。ECサイトの構築に活用できる補助金には種類がありますので、条件や注意点と併せてここで解説していきます。
ECサイト構築で利用できる補助金の種類
EC市場は急激に発展を遂げており、今後も高い需要が見込めるものです。IT技術も革新していることから、最新技術を搭載したITツールやシステムを導入していくにはまとまった資金も必要といえます。
せっかく構築したECサイトも継続できなければ本末転倒であり、経費の負担を軽減するには補助金を活用するのがおすすめです。ECサイト構築に利用できる補助金の種類をみていきましょう。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は革新的なサービス・試作品開発・生産プロセスを改善する際に利用できる補助金制度で、ECサイト構築におけるシステム開発やデジタル技術による販売戦略が対象となります。
2020年から通年で公募を行っており、3~4カ月のスパンで締め切られています。最新情報は「ものづくり補助金総合サイト」のスケジュールで確認可能です。
こちらの補助金はサイト構築だけでなく、新商品の開発で運用を強化したい場合にも適応が検討されます。2025年2月末の時点では第19次公募まで行われており、公募期間が2025年2月14日(金)~4月25日(金)17時で、申請受付開始が4月11日17時となっています。
ものづくり補助金
概要 | 革新的な新商品やサービス開発の取り組みに必要な設備・システムの投資支援。 ここでは顧客に新たな価値を提供することを目的としているので、ECサイト構築におけるデジタル技術導入での販売戦略が該当します。 |
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補助上限額(補助下限額) | 従業員5人以下:750万円 5人~20人:1,000万円 21人~50人:1,500万円 51人以上:2,500万円 |
補助対象基本要件 | 以下①~③の要件をすべて満たす3~5年の事業計画を策定していることが前提となります。 従業員が21人以上の場合は、④も満たす必要があります。 ①事業者全体の付加価値額(人件費・減価償却費・営業利益を足したもの)を年平均成長率(CAGR)3%以上増加。 ②従業員および役員それぞれの給与支給総額の年平均成長率を2%以上増加。 ③事業場内最低賃金を毎年、事業実施都道府県における最低賃金より30円以上の水準へ。 ④従業員21人以上の場合、「次世代育成支援対策推進法」の第12条に規定する一般事業主行動計画の策定と公表を実施。 (各項目にはそれぞれ追加の要件があるので注意) |
補助率 | 中小企業1/2、小規模事業者及び再生事業者2/3 |
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、中小企業や小規模事業者の持続的な発展を図ることを目的とし、ECサイト構築には一般型の通常枠と創業型で支援を受けられます。
生産性向上や販路開拓に伴うマーケティングや販売促進に関する支援となり、主に事業を行うための取り組みを支援する補助金です。新規ECサイト構築だけでなく、既存サイトのリニューアルや商品ページの最適化、Webマーケティング、物流システムの改善にも対象となりえます。
小規模事業者持続化補助金
一般型(通常枠) | 創業型 | |
事業目的 | 小規模事業者が経営計画を自ら策定し、商工会・商工会議所の支援を受けて販路開拓などを支援すること。 | 創業後3年以内の小規模事業者が生産性や販路開拓における経営計画を策定し、商工会や商工会議所の支援を受けて取り組みを支援。 |
従業員数 | ・商業・サービス業は5人以下(宿泊業や娯楽業は除きます) ・製造業またはそれ以外の業種は20人以下 | |
補助金上限 | 50万円(特例で最大250万円) | 200万円(特例で最大250万円) |
補助率 | 2/3 |
2025年の補助対象要件は今後公表される見通しです。
特例には通常枠に「インボイス特例」と「賃金引上げ特例」があり、前者はインボイス特例の要件を満たすと50万円の上乗せ、後者は賃金引上げ特例の要件を満たすと150万円が上乗せされます。
創業型はインボイス特例のみが適用されるので注意してください。
また、創業枠は認定市区町村が発行した特定創業支援等事業の支援プログラムを受けた証明書の写しが必要となります。
参考:中小企業庁 中小企業庁関連予算 令和6年度補正予算・令和7年度当初予算関連
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、新型コロナウイルスによる影響を受けた企業が、経済社会の変化に対応するために、新しい市場進出や事業転換の取組を支援する制度です。
ECサイトで販路開拓だけでなく、新規構築やリニューアルで新規事業を展開するなど、一定の要件を満たさないと対象外となるので注意が必要です。
事業再構築補助金
名称 | 成長分野進出枠(通常類型) |
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補助金(中小企業者等・中堅企業等) | 【従業員数20人以下】100万円~1,500万円(2,000万円) 【従業員数21~50人】100万円~3,000万円(4,000万円) 【従業員数51~100人】100万円~4,000万円(5,000万円) 【従業員数101人以上】100万円~6,000万円(7,000万円) |
補助率 | 中小企業者等 1/2(2/3) 中堅企業等 1/3(1/2) |
名称 | 成長分野進出枠(GX進出型) |
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補助金(中小企業者等) | 【従業員数20人以下】100万円~3,000万円(4,000万円) 【従業員数21~50人】100万円~5,000万円(6,000万円) 【従業員数51~100人】100万円~7,000万円(8,000万円) 【従業員数101人以上】100万円~8,000万円(1億円) |
補助金(中堅企業等) | 100万円~1億円(1.5億円) |
補助率 | 中小企業者等 1/2(2/3) 中堅企業等 1/3(1/2) |
名称 | コロナ回復加速枠(最低賃金類型) |
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補助金(中小企業者等・中堅企業等) | 【従業員数5人以下】100万円~500万円 【従業員数6~20人】100万円~1,000万円 【従業員数21人以上】100万円~1,500万円 |
補助率 | 中小企業者等 3/4(2/3) 中堅企業等 2/3(1/2) |
補助対象要件として、下記3つがあります。
①「事業再構築」の定義に該当する事業。
② 事業計画書を金融機関等に確認を受けていること。
③ 補助事業終了後に3~5年で付加価値額を年平均成長率3%以上増加させること(事業類型によって4%以上もあり)
地方自治体の補助金
補助金は国の支援ばかりではありません。ECサイトの構築には地方自治体も取り組んでおり、独自の経済発展をになって提供しています。
補助額や要件は各自治体によって異なるので、最寄りの自治体や商工会議所に相談してみてください。地域の活性化につながる取り組みは自治体も歓迎しており、地元の農産物や工芸品を全国に販売する地域密着型のECサイトを展開すれば、地域経済の活性化にも貢献できるでしょう。
自治体の補助金は採択率が高く手続きもシンプルな場合があるものの、予算枠が限られているケースが多いので、迅速な行動が必要です。
ECサイト構築における補助金申請の注意点
ECサイト構築における補助金の活用は、事業スタートにおいても非常にありがたいものといえます。それだけに補助金申請には失敗できないものですし、手続きも慎重に行う必要があります。
国や地方自治体の補助金の申請には時間のかかる場合が多くて労力もいります。しっかりとした事業計画も必須となりますので、補助金申請の注意点を抑えておくようにしていきましょう。
IT補助金は対象外
まず2023年までに公募できたIT導入補助金は対象外となります。古いサイトにはまだIT補助金でECサイト構築とうたっているケースもあり得ますので、常に最新の情報を確認するようにしましょう。
IT技術とECサイトは関連性が深いものですが、2024年からはECサイト構築が対象外となってしまったので注意してください。
国の補助金は先述した「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」「事業再構築補助金」を活用するようにしましょう。
申請書類は正確に記入
補助金の申請書類は不備が見られがちです。誤字脱字のチェックはもちろん、記入漏れや書類の不足もNGです。
どれだけ優れた事業内容であっても、書類に不備があれば審査の段階でマイナスとなってしまいます。特に事業計画書は審査に大きな影響を及ぼしますので、入念にチェックをして内容に不備がないか見直しておきましょう。
事業計画書には補助金の定義に沿った取り組みであることをアピールしないといけません。ECサイトの構築にかかる費用や予算の振り分けで審査の担当者から不信に思われないように、矛盾点を無くすように心がけてください。
目標などの具体的な数字や指標における根拠など、きちんと説明できる内容で説得力を持たせるようにしましょう。
期限の確認
補助金には申請期限が設けられており、これを過ぎると申請を受け付けてもらえません。提出書類も自社で用意するだけでなく、金融機関や市役所、取引先にいたります。
先方の都合もありますので、期限ギリギリに用意するのではなく、余裕を持ったスケジュールで提出するようにしましょう。
個人事業主の場合、自分の代わりに申請書を用意する人材がいないこともあります。急に体調を崩す場合もあれば、事業の突発的なトラブルで対応が遅れてしまうことも想定されますので、常に余裕をもって準備するようにしてください。
申請期限が間近になると焦ってしまって書類の不備に気づかず、仮に気づいて修正しても間に合わないケースがあるので注意が必要です。
労力がかかり必ず通るとは限らない
補助金を申請するのはかなり労力がいります。事前準備をしていても、限られた期限の中ではなかなか慎重になれるものではありません。事業の方に集中してしまい、申請書を後回しにしてしまうこともあるものです。
さらに、せっかく時間をかけて申請書を提出したとしても、必ず通るとは限りません。補助金は採択枠が限られており、すべての事業者が補助金を受け取れるものではないのです。
したがって、補助金をあてにして事業計画を立てると、後の資金繰りに影響が出てしまうでしょう。
基本的に補助金の審査に通らないことを想定した上で、事業計画を立てるようにしてください。
申請してもすぐに交付されない
補助金は申請したからといって、すぐに交付されるわけではありません。創業の補助金であっても、受け取れるのは開業後となってしまうケースが目立ちます。
補助金の申請が通ったからといって、ECサイトの構築にかかる費用を補助金でまかなおうとしても、すぐに支払われないので事業が行き詰ってしまう可能性もあり得ます。
補助金はあくまでも採択されたらありがたいという認識で考えておき、交付されるまでに時間がかかることを念頭においておきましょう。
不安なときは専門家を活用
補助金申請は慎重になるケースが多く、限られた期限内に作成することばかりを考えると、ECサイトの運用に支障をきたしてしまいます。
そこで、申請書類に不安なときには税理士や中小企業診断士、コンサルタントといった外部の専門家に相談するのがおすすめです。実績豊富な専門家にサポートを受けることで、客観的な視点から自分では気づけない要点を指摘してもらえます。
事業計画書の作成も目を通してもらい、必要な書類の不備や漏れがないかトータル的に審査に通るためのアドバイスをもらえるのは効率的です。審査に通ったあとも報告書などの書類を提出しないといけません。万が一申請書類の通りに事業が進められないと、補助金の返還を求められます。
すでに事業に支払ってしまった場合だと、資金が繰り出せずに事業の継続に影響が出てしまう可能性があります。そのため、補助金返還のリスクを避けるためにも、補助金の申請が通ってからでも専門家にサポートしてもらうことで、適切なEC事業を運用できるメリットが生まれます。
ECサイト構築は補助金を活用して賢く進めよう!
ECサイト構築における補助金には「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」「事業再構築補助金」と自治体の補助金制度を活用できます。
それぞれ要件や補助額が異なりますし、申請書や期限もバラバラです。ECサイトの構築に時間が取られ過ぎて申請期限が過ぎないように十分注意し、申請書類や事業計画書に不備がないようにしていきましょう。
補助金は申請してから交付されるまでに時間がかかるものです。普段のECサイト運用には補助金をあてにしない資金繰りを心がけてください。