ECサイトを運営するうえで、発注から納品までの期間(リードタイム)は非常に重要な要素です。お客様が商品を購入する際、価格や画像、レビューを参考にしますが、「いつ届くのか」も購買決定に大きく影響します。
リードタイムを短縮できれば、顧客満足度の向上はもちろん、ECサイトの競争力や集客力にもプラスの効果をもたらします。そのため、自社ECサイトでもモール型ECでも、発注から納品までの期間を適切に管理することが求められます。
本記事では、リードタイムの重要性や短縮する際の注意点について詳しく解説していきます。
発注から納品までの期間を指す「リードタイム」
発注から納品までの期間は「リードタイム」と呼ばれ、一般的には以下の工程を含みます。
- 商品の調達(部品や材料の仕入れ)
- 製造(生産)
- 検査(品質チェック)
- 出荷・配布
業種によっては、これに開発期間を含める場合もあります。
EC事業においては、お客様が商品を購入してから実際に受け取るまでの期間をリードタイムと呼びます。しかし、自社で製造まで行っている企業では、調達から納品までのすべての工程をリードタイムとして管理する必要があります。
また、商品の流通プロセスは企業によって異なります。たとえば、メーカーや卸売業者が倉庫に在庫を持っていれば、注文後すぐに発送手続きが可能です。一方で、部品や材料を調達してから生産を行う場合は、リードタイムが長くなることもあります。そのため、事業形態に応じた適切なリードタイムの管理が重要です。
リードタイムと納期の違い
リードタイムと納期は似ているようで、意味が異なります。ビジネスの場面では、この違いを正しく理解しておくことが重要です。
リードタイムは、発注から納品までにかかる期間を指します。そのため、「リードタイムは〇〇日間」「1か月のリードタイムが必要」といったように、日数で表現されます。
一方、納期は、納品が完了する期限のことを意味します。「納期は〇〇月〇〇日」「納期は月末まで」といったように、具体的な日付で示されるのが特徴です。
リードタイムは「どれくらいの期間が必要か」、納期は「いつまでに届くのか」を示すものであり、両者を混同しないよう注意が必要です。
リードタイムの種類
リードタイムにはいくつかの種類があり、特にメーカーなどの製造業でよく使われる概念です。EC事業のみを運営していると、あまり意識することはないかもしれません。しかし、どのようなリードタイムがあるのかを理解することで、商品の流れや供給の仕組みを把握しやすくなります。
ここからは、リードタイムの種類について詳しく見ていきましょう。
開発リードタイム
開発リードタイムとは、商品の企画から実際の開発までにかかる期間を指します。新しい商品を企画する際は、市場のニーズを的確に捉え、トレンドを踏まえたプランを立案することが重要です。
しかし、市場のニーズは常に変化するため、開発に時間がかかりすぎると売れ行きに影響を及ぼす可能性があります。現時点で人気のある商品でも、リードタイムが長すぎると、発売時には市場の関心が薄れているかもしれません。
また、企画が優れていても、既存の製造工程では生産が難しいケースもあります。材料の調達、製造プロセス、梱包といった後工程まで考慮しながら、スムーズに開発を進めることが求められます。
調達リードタイム
調達リードタイムとは、商品に必要な材料を確保し、生産する工場へ納品するまでの期間を指します。調達のスピードが生産全体の流れに直結するため、スムーズな管理が求められる重要な工程です。
特に海外から材料を調達している場合、原油価格や原材料の高騰などの影響を受けやすく、さらに受注が増えると供給が追いつかないリスクもあります。そのため、他社メーカーへの交渉や代替材料の確保など、柔軟かつ迅速な対応が必要になります。
また、調達の対象となるのは原材料だけとは限らず、企業によっては部品も含めて管理する場合があります。調達が遅れると工場の生産がストップしてしまうため、在庫とのバランスを考えながら計画的に材料を確保することが重要です。
生産・製造リードタイム
生産・製造リードタイムとは、工場での生産工程にかかる期間を指します。実際に商品が製造される工程であり、製造業において最も重要なプロセスのひとつです。
工場では多くの設備や人員が関わるため、リードタイム短縮の取り組みが特に重視される工程でもあります。24時間稼働や土日を含めたフル生産体制を導入する工場も多く、調達が遅れれば生産計画に大きな影響を及ぼすことになります。
また、生産工場にはさまざまな工程が存在し、加工・塗装・組立・検査など、工場ごとに細かく分かれています。各工程のスムーズな連携がリードタイム短縮には不可欠であり、工程間のリードタイム管理も重要なポイントといえるでしょう。
出荷リードタイム
出荷リードタイムとは、発注されてから商品が出荷されるまでの期間を指します。商品が保管されている倉庫や工場のバックヤードでは、注文が入るまで梱包が完了していないケースもあります。そのため、注文を受けた後に梱包・ラベル発行・トラックへの搬送といった作業が行われます。
出荷リードタイムの短縮には、倉庫管理システム(WMS)などの導入が有効ですが、運用の最適化も重要です。ピッキング作業の効率化や、自動梱包機の活用など、出荷プロセスをスムーズにする工夫が求められます。出荷に時間をかけすぎると配送の遅れにつながるため、出荷リードタイムをできるだけ短縮することが、スピーディーな配送のカギとなります。
配達リードタイム
配達リードタイムとは、商品が出荷されてからお客様の手元に届くまでの時間を指します。実際に商品が配送される工程であり、EC事業者にとっても非常に重要なリードタイムのひとつです。
配送方法はさまざまで、倉庫からトラックで直接配送されるケースもあれば、物流拠点を経由して届けられるケースもあります。海外からの配送では、飛行機や船を使った輸送が必要となり、さらに通関手続きなどの時間も考慮しなければなりません。
特に発注先が海外の場合は、納品までに時間がかかることも多いため、物流業者との綿密な調整が不可欠です。配達リードタイムを短縮するには、最適な配送ルートの選定や、複数の物流パートナーとの協力が重要になります。
リードタイムの計算方法
リードタイムの計算方法には、主に2つの方法があります。着手日を基準に算出する「フォワード法」と、納品日から逆算する「バックフォワード法」です。それぞれの方法によって、リードタイムの算出方法が異なるのが特徴です。
次のセクションでは、それぞれの計算方法について詳しく解説していきます。
フォワード法
フォワード法は、最初の工程を起点としてリードタイムを算出する方法です。着手日から完了までにかかる日数を順番に計算していくため、第一工程の開始日を基準にスケジュールを組むことができます。
この方法のメリットは、第一工程の開始日が決まれば、次の工程の計画も立てやすくなる点です。生産現場においては、作業の割り振りがしやすくなり、突発的な急ぎの対応にも柔軟に対応しやすい特徴があります。
バックフォワード法
バックフォワード法は、納品日から逆算してリードタイムを算出する方法です。この方法を用いると、全体のリードタイムを把握しやすくなり、工程ごとに作業が重ならないよう計画を立てることができます。
ただし、作業を並行して進めにくいため、突発的なイレギュラーが発生するとスケジュールの巻き返しが難しくなる点がデメリットです。その一方で、順調に進めば余裕をもって生産スケジュールを組むことができ、計画的な進行が可能になります。
特に、生産管理の視点では、全体の工程を見渡しながら作業計画を立てやすい方法といえるでしょう。
発注から納品までの期間(リードタイム)を短縮するメリット
発注から納品までの期間を短縮することは、生産工場やEC事業者、お客様のすべてにとって大きなメリットをもたらします。一方で、リードタイムが長くなると、販売機会の喪失、余剰在庫の増加、顧客満足度(CS)の低下といったデメリットが発生する可能性があります。
ここでは、リードタイムを短縮することで得られる具体的なメリットについて解説していきます。
販売機会の喪失や見込み客の流出を防ぐ
リードタイムを短縮することで、販売機会の喪失や見込み客の流出を防ぐことができます。お客様が商品を購入する際、同じ商品が複数のショップで同等の価格で販売されている場合、どの店舗で購入するかを比較検討します。
このとき、納品までに時間がかかるA店と、迅速な発送を心がけているB店があれば、ほとんどのお客様はB店を選ぶでしょう。もちろんレビューなども参考にしますが、発送までに時間がかかる店舗は、評価が伸びにくい傾向にあります。
リードタイムが短縮されていれば、スムーズな配送が可能になり、販売機会の損失を防ぐことができます。
また、今すぐ購入するわけではなく、検索して商品を比較している段階のお客様も多くいます。その際、「この店舗なら早く届きそう」とイメージされることが、購入決定の後押しになります。リードタイムが短い店舗は、見込み客が他店へ流出するのを防ぐ効果も期待できるでしょう。
過剰在庫を防ぎ、適正在庫でコスト削減
発注から納品までの期間が短縮されると、余分な在庫を抱えずに済むため、コスト削減につながります。リードタイムが長いと、納品の遅れに備えて過剰在庫を確保しがちですが、その分、管理コストが増加するという問題が生じます。
在庫は売れるまでは資産ではなくコストであり、保管や管理にもスペースと費用がかかります。EC事業者も品切れを防ぐために在庫を多めに持ちたくなりますが、過剰な在庫は保管スペースを圧迫し、物流コストの増加につながります。
一方、リードタイムが短縮されると、必要なときに必要な分だけの在庫を確保できるため、適正在庫の維持が可能になります。その結果、無駄な在庫コストを削減し、より効率的な運営が実現できるでしょう。
CS(顧客満足度)の向上につながる
リードタイムが短いほど、CS(顧客満足度)は向上しやすくなります。お客様の視点から見ると、商品が早く届くショップほど「また利用したい」と思いやすくなるものです。
自社ECはもちろん、ECモールでも配送の早いショップは検索されやすくなり、リピーターが増える傾向があります。反対に、リードタイムが長いと「この店はいつも発送が遅い」という印象を持たれ、再購入の意欲が低下してしまう恐れがあります。
また、スマートフォンの普及により、世代を問わずインターネットで商品を購入する人が増えています。当日配送や翌日配送の需要が高まり、多少価格が上がっても「すぐに届く」ことを重視するお客様も少なくありません。特に、対面での受け取りが不要な「置き配」の普及も影響し、迅速な発送がECサイトの競争力を高める要因になっています。
リードタイムを短縮することで、他店との差別化を図りながらCSを向上させ、リピーターを確保して売上向上につなげることができるでしょう。
自社で生産している場合はリードタイム短縮がデメリットになることも
ECサイトを運営する事業者の中には、自社で商品の開発から生産までを一貫して行っているケースもあります。一般的にリードタイム短縮はメリットが大きいとされていますが、生産体制によってはデメリットも生じる可能性があります。
特に、以下の2つのリスクが考えられます。
- 品質の低下
- 小ロット生産による在庫不足
次のセクションでは、それぞれのデメリットについて詳しく解説していきます。
品質の低下
リードタイムを短縮すると、生産スピードが上がる一方で、品質の低下を招く恐れがあります。短納期を実現するために、従来の作業工程を省略したり、加工サイクルを増やしたりすることで、生産効率を優先するケースも少なくありません。
例えば、作業工程を一部削減する、全数検査から抜き取り検査に移行するといった方法は、リードタイム短縮には有効ですが、その結果、品質管理が行き届かず、不良品の発生率が高まるリスクがあります。
品質が低下すると、クレームの増加やブランドの信頼低下につながり、結果的に顧客離れを招く可能性があるため、リードタイムの短縮と品質維持のバランスを慎重に検討することが重要です。
小ロット生産による在庫不足
商品の生産を小ロットで行うと、余分な在庫を抱えずに済むというメリットがあります。しかし、材料不足や工場の設備トラブルが発生すると、生産がストップしやすくなるリスクも伴います。
工程間で一定の在庫を確保していれば対応できる場合もありますが、生産自体が止まってしまうと商品の発送が遅れ、お客様の信頼を損ねる原因になります。
また、市場ニーズが急変し需要が急増した際、在庫が不足すると品切れが発生し、追加生産のために調達を増やす必要が出てきます。リードタイムが長くなると、お客様は他店での購入を検討しやすくなり、最終的に販売機会を逃すことにもつながります。さらに、生産が再開した頃には需要が落ち着いてしまい、過剰在庫を抱えてしまう可能性もあるため、小ロット生産は慎重な在庫管理が求められます。
ECサイトでは発注から納品までの期間は確認メールが大事
EC事業を運営する場合、発注から納品までにかかる期間を正確に把握するためには、メーカーや卸売店への確認メールが重要になります。
確認メールを送る際は、納期の確認だけでなく、必要に応じて疑問点や追加の質問も伝えることで、スムーズな取引につながります。ただし、相手に失礼な印象を与えないよう、丁寧な言葉遣いを意識することが大切です。
納期確認メールとは
納期確認メールは、お客様に送信するものではなく、EC事業者がメーカーや卸売店に納期を問い合わせる際に使用します。
自社倉庫を持つショップであれば、在庫を適切に確保するために必要となり、在庫を持たないEC事業者の場合は、メーカーや卸売店がどれだけの在庫を確保しているのかを把握するために重要です。
納期確認メールは、以下の構成で作成します。
- 冒頭のあいさつ
- 商品の納期確認
- 確認を行う理由
- 締めのあいさつ
特に難しい内容にする必要はありませんが、相手が多忙な場合、冗長なメールはかえって失礼にあたるため、簡潔で分かりやすい内容を心がけることが大切です。
また、件名を含めて要点が伝わるようにし、ビジネスマナーに沿った文章を意識しましょう。EC事業者、メーカー、卸売店のいずれにとっても、最も重要なのはエンドユーザーであるお客様に正確な納品日を伝えることです。
納期確認メールの注意点
海外からの輸入や在庫不足などでリードタイムが長くなる場合、納期確認メールでは返信期限を設けることが重要です。「お手すきの際に」といった表現を使うと、先方の担当者が後回しにしてしまう可能性があります。
ただし、先方の手配ミスなどではなく、通常の業務フローの中で対応してもらう場合、一方的に早い返信期限を設定すると、信頼関係に悪影響を及ぼすこともあるため、相手の状況を考慮しながら適切な期限を提示することが大切です。
また、納期確認メールを送る時間帯にも注意が必要です。夜間や休憩時間は避けるのが基本ですが、日中であっても業務開始直後や終了間際は避け、適切なタイミングで送信するようにしましょう。
納期が遅れそうなら顧客へすぐに連絡
納期確認メールの返信で納品の遅れが判明した場合や、ある程度の納期が確定した際には、できるだけ早くお客様へ連絡を入れることが重要です。
お客様にとって最も大切なのは、商品がいつ届くのかを正確に知ることです。納期が遅れると分かった時点で迅速に連絡を入れることで、顧客満足度の低下を防ぎ、信頼関係を維持しやすくなります。
また、納期を知らせてくれたメーカーや卸売店に対しても、簡潔にお礼のメールを送ることで、良好な関係を築くことができます。 こうしたビジネスマナーを徹底することで、今後の取引がスムーズに進む可能性が高まります。
発注から納品までの期間を短縮し、ECサイトの競争力を高めよう
発注から納品までにかかる期間はリードタイムと呼ばれ、短縮することで以下のメリットが得られます。
- 販売機会の喪失や見込み客の流出を防ぐ
- 適正在庫でコスト削減
- 顧客満足度(CS)の向上
リードタイムが長くなると、顧客満足度が低下し、見込み客までもが他店へ流れてしまう可能性があります。そのため、普段からリードタイムを改善し、スムーズな納品を実現することが重要です。
また、納期確認メールを適切に活用することで、お客様に迅速かつ確実に商品を届けることができます。ECサイトの信頼性を高め、競争力のある運営を目指していきましょう。