過剰在庫は、企業の在庫管理において避けたい問題の一つです。売れ残った商品が溜まることで、資金繰りや保管コストが増加し、最終的には利益に悪影響を与えることになります。この記事では、過剰在庫が発生する原因とその対策について解説し、効率的な在庫管理の重要性を紹介します。
過剰在庫とは
過剰在庫は、需要を上回る在庫のことを指します。企業にとって在庫は欠かせないものであり、品切れを防ぐためには適切に管理することが求められます。しかし、過度に発注や製造を行うと、在庫が余剰となり、過剰在庫を抱えることになります。
過剰在庫と余剰在庫の違い
「過剰在庫」と「余剰在庫」は、実際にはほぼ同じ意味で使用されます。どちらも「過剰な在庫」や「需要を超えた在庫」を示す表現であり、厳密な使い分けの基準は存在しません。したがって、この二つの用語のどちらを使用しても問題はないと言えます。
過剰在庫と滞留在庫の違い
過剰在庫と滞留在庫は、実際には異なる意味を持っています。過剰在庫とは、将来的に売れる可能性が残っている在庫を指します。現在の需要には対して多すぎるものの、今後需要の増加が見込まれるため、価値ある資産として扱われます。
一方で滞留在庫は、売れる見込みがほとんどない在庫を指します。例えば、消費期限が迫っている商品や、不良品、破損品などが滞留在庫に該当します。このような在庫は負債と見なされ、できるだけ早く処分しなければなりません。
過剰在庫が抱える問題
過剰在庫にはいくつかのリスクがあります。まず、保管にかかるコストが増加します。倉庫のスペースや管理費用が無駄にかかり、効率的な運営が難しくなります。また、在庫の品質管理も重要です。長期間保管されることで商品が劣化する可能性があり、最終的には販売できなくなることもあります。
過剰在庫によるリスク
過剰在庫がどのようなものであるか理解できたら、そのリスクについても確認しておきましょう。過剰在庫を抱えることによって、どんな問題が生じるのかを見ていきます。
商品の劣化や陳腐化による価値の低下
過剰在庫が長期間売れ残ると、商品の劣化や陳腐化が進み、商品価値が低下する恐れがあります。例えば、食品は長期間の保存で品質が落ち、衣類が色褪せたり、ゴム製品やビニール包装が劣化したりすることがあります。これにより、元々の価値を保つことができなくなります。
さらに、時代遅れとなったデザインや機能が原因で、商品が陳腐化していくこともあります。これも商品の市場価値を低下させる要因となります。このように、過剰在庫は商品の価値を減少させ、「売れ残り→さらに売れない」という悪循環を引き起こすことがあります。
廉価販売や廃棄による金銭的損失
過剰在庫が売れ残ると、最終的に廉価販売や廃棄処分をしなければならない場合があります。これにより、想定していた利益が得られず、金銭的な損失を被ることがあります。
先に説明したように、過剰在庫は商品価値を低下させるため、売り切るためには値引き販売をせざるを得ません。この場合、計画していた利益を確保することは難しくなります。また、商品価値がゼロになった場合、廃棄するしかなく、回収できる金額は一切ない上に廃棄費用が発生し、赤字になることもあります。
過剰在庫による金銭的損失はもちろん、値引き販売がブランドイメージに悪影響を及ぼす場合もあるため、慎重な対応が求められます。
管理費用の負担
過剰在庫があると、その管理に関して様々な費用が発生します。以下のような管理費用がかかることが一般的です。
- 保管費用
- 税金
- 特別販売にかかる費用
- 廃棄費用
保管費用
売れない商品を長期間保管するためには、倉庫の賃料や人件費がかかります。売れ残った在庫を保管するためのコストが増加し、事業の経営を圧迫することになります。
税金
決算時に過剰在庫を抱えていると、納めなければならない税金が増加することがあります。なぜなら、税額の計算に在庫の数が関わるからです。
税金は「売上総利益」に基づいて計算されますが、売上総利益は以下のように求められます。
売上総利益 = 売上高 – 売上原価
売上原価は「期首在庫+仕入高−期末在庫」で計算され、期末在庫が多いと売上原価が減少し、結果として売上総利益が増えます。このため、過剰在庫が多いほど税金額が増加してしまうのです。
特別販売
過剰在庫を売り切るために特別販売を実施する場合、広告費や催事費、価格変更に伴うコストなどがかかります。こうした費用が発生することで、通常の販売方法では得られるはずの利益が減少する可能性があります。
廃棄費用
商品が価値を失い、最終的に廃棄する必要が生じた場合にもコストがかかります。廃棄するにも手数料がかかり、現代ではゴミの処理にも費用が発生します。廃棄費用も無視できない負担となります。
キャッシュフローの悪化
過剰在庫はキャッシュフローの悪化を引き起こす可能性があります。実際に売れた商品に対して得られる現金がないため、事業活動に必要な資金を十分に確保できなくなることがあります。
在庫は会計上、企業の資産として扱われますが、実際に売れなければその資産は現金には変わりません。過剰在庫を抱えていることは、現金を自由に使えない状態に陥ることを意味し、最終的に資金繰りが厳しくなり、場合によっては倒産のリスクさえ生じることもあります。
過剰在庫の原因
ここでは過剰在庫の原因について解説していきます。
データに基づかない準備
過剰在庫が発生する最も一般的な原因の一つは、データに基づかない商品準備です。具体的には、在庫や販売実績のデータを正確に把握せずに、「このくらいは必要だろう」という感覚的な予測で在庫を準備すると、思ったほど売れずに余ってしまうことがあります。
適切な在庫管理には、リアルタイムでの在庫状況の把握と、必要な量だけを的確に発注することが不可欠です。さらに、感情に左右されることなく、販売データや市場の動向に基づいて、適切な在庫数をしっかりと見極める必要があります。このような客観的なデータに基づく判断ができなければ、過剰な在庫が積み重なってしまう恐れがあります。
需要予測の不正確さ
商品の需要予測が正しく行われていない場合も過剰在庫の原因になります。予測が外れると、必要以上の在庫を準備してしまうことになります。
需要が予想以上に急激に減少した場合、残った在庫を売り切るのは非常に難しくなります。そのため、需要の変化を早期に察知し、在庫数を適切に調整することが不可欠です。これを怠ると、売れ残りの在庫が過剰在庫として積み上がってしまいます。
特に次のような商品は需要の予測が難しく、過剰在庫のリスクが高いため、十分な注意が必要です。
●カラーやサイズが豊富な商品
多くの選択肢を提供する商品では、人気のないカラーやサイズが売れ残ることがあります。均等に在庫を準備すると、余ってしまうことが多いです。
●季節限定の商品
季節限定の商品は販売期間が限られているため、予想よりも売れ行きが悪いと、その後の対応が難しくなります。さらに、翌シーズンに再販しようとしても、劣化や流行の変化によって売れ残るリスクが高まり、結果として在庫が残りやすくなります。
●競合が強い商品
競合商品が優れた性能や価格で市場に登場した場合、自社製品が選ばれず、売れ残ってしまうことがあります。
返品の影響
返品が多発すると、過剰在庫を引き起こす要因となります。商品が売れた後に追加発注をしているところに、返品が加わることで、在庫は思いのほか増えてしまいます。さらに、返品された商品は再販が困難な場合も多く、このことが過剰在庫を招く結果となります。
返品は必ず起こりうることですが、その数を予測することは難しいです。しかし、返品を減らすためには、不良品や誇大広告などの原因を取り除くことが重要です。顧客都合による返品は予測できませんが、できるだけ防ぐ努力が必要です。
過剰な事前製造
製造業では、材料不足や設備の故障など予測できないリスクに対応するため、余分に製造してしまうことがあります。これが過剰在庫の一因となるのです。製造に必要な材料には、安定して供給されるものもあれば、供給が不安定なものも存在します。
また、設備や人員不足によって製造が止まるリスクもあります。そのため、こうしたリスクに備えて多く製造しておこうとする気持ちは理解できますが、販売できる分以上に製造を進めてしまうと、すぐに売れない商品が過剰在庫となってしまいます。
在庫管理者の不在
在庫管理の責任者が定まっていないと、在庫状況を正確に把握することが難しくなり、その結果として過剰在庫が生じやすくなります。誰がその役割を担うべきかが不明確だと、現在の在庫数が把握できず、不必要な商品を発注してしまうことがあります。
過剰在庫が発生していることがわからずに、そのまま放置されるケースも少なくありません。特に、複数の拠点で販売や保管が行われている場合、全体の在庫状況を把握することが非常に難しくなるため、問題を見逃してしまうことが多いのです。
そのため、在庫の管理を一元化できる責任者を任命し、その指導のもとで必要な商品だけを発注することが非常に重要です。
過剰在庫を防ぐための対策
過剰在庫が発生する原因を理解し、それを防ぐ方法を明確にすることが重要です。ここでは、過剰在庫を防ぐための効果的な対策を紹介します。
在庫数と販売数の可視化
在庫管理の核心は、在庫の数量と販売の動向を的確に把握することです。この二つの情報を可視化することで、どのタイミングで商品を追加する必要があるのか、しっかりと見極めることが可能になります。
まず、在庫数については、すべての在庫を棚卸し、管理票を作成して「何を・いくつ・どこに保管しているか」を記録します。これによって、在庫がどの程度残っているのかが一目でわかります。
次に、販売数に関しては、売上データを確認し、表にまとめて管理します。複数の販売拠点がある場合、すべてのデータを統合して管理することを忘れないでください。これにより、需要に応じた適切な在庫管理が可能になります。
返品予防策の実施
過剰在庫を抑えるためには、返品の数を減らすことが不可欠です。返品が増えると、それだけ在庫が積み上がってしまうため、返品の原因をしっかり把握して対策を講じる必要があります。まず最初に、不良品の排除が重要です。商品の欠陥が原因で返品が発生するため、品質管理を強化し、不良品が市場に流通しないよう徹底的に検査を行うことが求められます。
また、広告の内容が誤解を招かないようにすることも必要です。顧客が期待していた商品と異なる場合、返品が増えます。広告内容の見直しや、誤認を避けるための対策を行うことが過剰在庫防止に繋がります。
在庫管理の責任者を配置し、システム化する
在庫管理を担当する責任者を明確にし、その上でシステム化した方法で管理することが欠かせません。責任者が一人決まっていれば、在庫数を正確に把握でき、過剰在庫を防げます。
また、在庫管理の方法を統一し、誰でも参照できるようにシステム化することが効果的です。管理ルールやフォーマットをしっかり決め、必要に応じてシステムツールの導入を検討することをおすすめします。
部門間での認識の統一
過剰在庫の問題を防ぐためには、部門間で認識を統一することが大切です。例えば、販売部門は欠品を避けるために多めの在庫を持ちたがり、経理部門はコスト削減のために在庫を減らしたいと考えることがあります。
認識の違いがあると、過剰在庫が発生するリスクが増大します。こうした事態を防ぐためには、組織全体で過剰在庫のリスクを十分に理解し、協力して適正な在庫水準を決定することが重要です。各部門間で積極的に意見を交わし、全員が共通のゴールを意識しながら調整を進めることが求められます。
適正在庫数の算出
適正在庫数を算出する際には、計算式を用いて客観的に判断することが重要です。予測に基づく在庫数は、勘ではなくデータを基にすることで信頼性が高まります。在庫数や需要予測をデータに基づいて行うことで、予測の精度が向上し、過剰在庫を防ぎやすくなります。
もちろん、流行や取引先の状況など、数値化が難しい要素もありますが、できる限り客観的なデータを元に判断する方が効果的です。
在庫管理を効率化し、過剰在庫を作らないようにしよう!
過剰在庫は、データに基づかない予測や需要の誤認、返品や事前製造の過剰が原因で発生します。これを防ぐためには、適切な在庫管理や需要予測、返品対策が不可欠です。効率的な在庫管理を行うことで、無駄なコストを減らし、事業の健全な運営が可能になります。